2021.12.07

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

生山 久展 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブ・ディレクター

この2年に亘るコロナ禍を経験した世界は、これからどこへ向かうのだろうか。

つい先日、購読しているメルマガに興味深いタイトルを発見した。株式会社翔泳社が発行している「MarkeZine」というメルマガの中にあった「フィリップ・コトラーが予測するコロナ後の世界、ビジネス、そして消費者」という記事。近代マーケティングの大家であるコトラーがどういう未来洞察を行っているのか興味を喚起された。そこにはコロナだけではなく、気候変動問題も含めて、これからの世界が向かう4つのシナリオが示されていた。

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

コトラーが推察する4つのシナリオとは?

◆コロナ後の世界―4つのシナリオ―
シナリオ1:単純にコロナ前に戻る
シナリオ2:コロナ後の新しい生活様式により経済が成長する
シナリオ3:経済と社会正義を実現する社会
シナリオ4:「地球を守るための規律」が重視される社会

シナリオ1:単純にコロナ前に戻る

飲酒などの生活習慣がコロナ前の通常に戻り、これまでの平均的な経済成長まで回復する

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

シナリオ1は、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺を引用するまでもなく十分考えられる。人間とは忘却の生き物と言われるように、人は辛いこと、嫌なことは忘れるから生きていける。筆者も完全にこのタイプ。阪神淡路大震災を経験したその直後には、これからは地域の人たちと地域のために生きていく覚悟を決めたものの、時間の経過とともにその気持ちは薄れていき、何のアクションも起こさないまま27年が経過しようとしている。さすがにすべてが元に戻るとは思えないが、思った以上に元の鞘に収まることもあり得るだろう。

シナリオ2:コロナ後の新しい生活様式により経済が成長する

在宅勤務やサブスク型エンターテインメントなどによる新しい生活様式とともに、これまでよりも高い経済成長を実現する

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

シナリオ2は、新しい生活様式が定着するという点にはリアリティを感じる。コロナ前は何の疑問もなく受け入れていた常識や通念が大きく覆されている。特に在宅勤務を強制的に強いられる中で、テクノロジーをうまく使えば在宅勤務でも全く支障がないということに気がつかされた仕事も多い。デザイン業の弊社においても、表面上はリモートワークでも問題なく進められる。ただ顔を突き合わせて意見交換することで生まれる化学変化は生まれにくい。やはり現場のグルーブ感というか、刺激・触発が少ないように感じる。他愛のない無駄話も重要だ。人が集まる意味はここら辺りにあると思う。ともあれコロナによって気がつかされた新しい生活様式の一部は間違いなく残っていく。ただこの定着によって経済が成長するのかは疑問。むしろ経済の停滞を招くのではないかという心配もある。

シナリオ3:経済と社会正義を実現する社会

北欧モデルとも呼ばれる、経済と社会正義を実現する、富裕層への増税、教育費や医療費の負担軽減などの施策へシフトする

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

シナリオ3は私の持論に近い。コトラー氏もこのシナリオを「理想的」と断じている。自由主義経済、市場至上主義によって世界中で貧富の差が拡がり、社会の分断が大きく進んだ。特にアメリカの分断は、我々の想像を大きく超えている。ニューヨーク州とミシシッピ州の平均寿命が15歳も違うなど、格差は収入だけでなく命にまで及んできている。アメリカの失敗は行き過ぎた自由を容認してきたことに起因する。

一方、中国は、政治は社会主義、経済は自由主義の「社会主義自由経済」。自由経済と言いながら、国家が平気で市場に介入してくる。中国のやり方に諸手を上げて賛成はできないものの、どちらが国民に豊かさをもたらしているかを考えると中国の方だという見方もできる。中国とまではいかなくても、北欧諸国のように税金は高くても、教育・医療・介護サービスをすべての国民が等しく受けられる社会が理想郷に思えてくる。ただ高齢化社会の急速な進行で、北欧諸国も従来のような手厚いサービスは提供できなくなってきているようだが。

シナリオ4:「地球を守るための規律」が重視される社会

より栄養価の高い食事ならびに食品ロスの削減といった生活と環境の両立、徒歩・車・飛行機など移動手段の選択による二酸化炭素排出のコントロールなど、消費者行動によって「地球を守るための規律」が生まれる

コトラーの「コロナ後の世界―4つのシナリオ―」への考察

そして最後のシナリオ4。9月のドイツの総選挙では環境や気候変動対策を強く訴えた緑の党が大躍進、とりわけ若年世代に圧倒的な支持を受けた。人生100年時代、これから先60年、70年生きる若年世代にとっては「地球を守るための規律」はより切実な問題だろう。

先日筆者はクルマの定期点検のためにマツダのディーラーを訪れた。その時に隣に座っていた30代とおぼしきお客様とディーラーの営業マンとの会話が漏れ聞こえてきた。「奥さんにクルマを売れと言われている」。彼は2シーターの人気のスポーツカー「ロードスター」に乗ってきていた。ガソリン車。クルマを手放すか、EV車への乗り換えを迫られていることを相談していた。ディーラーの担当営業マンは冗談交じりに「もう少し引き延ばしてもらってくださいね」とお願いしていた。マツダは環境負荷の少ないディーゼル「スカイアクティブ」に絶対の自信を持っていた。ディーゼル車が世界中で悪者扱いされる中、「クリーンディーゼル車」を販売し続ける姿勢はカッコよかった。環境意識の高い欧州世論が後押しする形で世界のEVシフトは一気に進み、マツダも2030年までにEV比率を25%にすると発表せざるを得なくなった。EV化に乗り遅れているので、当面はトヨタの技術協力で進めていくらしい。

こうした消費行動は、これからいろんな市場で一気に加速していくはずだ。「引き延ばし」てもらえるような猶予はない。「地球を守るための規律」が一丁目一番地の時代がすぐそこに迫っているはずだ。

ポストSDGsはWell-being

『人新世の資本論』が30万部を超えるヒットになっている大阪市大准教授の斎藤幸平氏。人新世【ひと―しんせい】とは、地質学的時代区分になぞらえて、現代は人類が地球を破壊しつくす時代と定義している。レジ袋削減のためのエコバッグを持ち歩き、ペットボトル飲料を買わないためのマイボトル持参、環境負荷の低いEV車への買い替え。こうした地球温暖化のための対策をしていると思い込むことが「免罪符」となり、真に必要とされているアクションを起こさなくなってしまうと。SDGsも政府や企業が行動指針をなぞったところで気候変動は止められないと。これを止めるには資本主義の際限なき利潤追求をストップし、脱成長でも豊かな社会の実現へ舵を切るというのが彼の主張である。

マルクス主義の斎藤氏の新書がベストセラーになっていることが異例中の異例。私は斎藤氏とはスタンスは異なるが、この本は実に素直に読むことができた。右とか左とかのイデオロギーに関係なく現在の社会システムに閉塞感を感じている人が多いことの表れだろう。私自身はコトラーのシナリオ3で、国家が適度に介入する「大きな政府」へ回帰することを願っている。そして企業は社会に貢献し、みんなの役に立つことが使命であるという「公益資本主義」の考えにシフトする。ポストSDGsの社会の軸は「Well-being」が本命になると推察する。人が身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態を目指した運営を、政府や企業に望みたい。

[筆者プロフィール]

生山 久展

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブ・ディレクター

戦略開発、調査・分析、商品開発、販促展開まで幅広いブランディング業務に従事。30年余の実務経験をベースに、的確な現状分析から本質的な課題解決のプランニングを得意とする。

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