2024.10.16

インナーブランディング実践編①
パーパス、MVVの制定はスタート地点ですらない

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■社内に“自信”を与え、社外に“共感”を生む、デザイン経営


こちらでは、デザインの力を活かして経営や事業の推進力を高めたいリーダーに向けて、インナーブランディングの「運用フェーズ」について見ていきます。

パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)は定めたものの、なかなか社内に浸透しない。その実現に向けて行動に移せていないといった相談もよくいただきます。

今回は、インナーブランディングに取り組む際の注意点、5つのチェックポイントをお届けします。



1. 経営層だけで進めていないか?
2.社員に対するコミュニケーションが不足していないか?
3.社員の行動、日常業務とリンクしているか?
4.効果を測る指標が設定されているか?
5.ミドルマネジメントの共感が得られているか?




1. 経営層だけで進めていないか?

インナーブランディングがうまくいっていない原因としてよくあるのが、経営層だけがパーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の重要性を意識し推進しようとしているケースです。

その場合、経営層と現場との間に温度差が生まれ、そのコンセプトが組織に根付きません。重要なのは、経営層だけではなく全社員がインナーブランディング活動自体の重要性を理解し、それに取り組むことが自らの役割であると捉えられるようにしていくことです。

進めるポイントとしては、まず経営層がどのような想いでそのコンセプトに至ったのかを説明することが大切です。また、社員からのフィードバックを受け入れる柔軟性も必要です。一方的な発信ではなく、社員の意見を取り入れることで、インナーブランディングへの参加意識を高めていきます。

インナーブランディングにおいては、特にリーダー層や中堅社員の関与が鍵になります。リーダーを起点に現場での取り組みを仕組化することで、社員にとって実感のある取り組みとして捉えやすくなります。経営層だけではなく、組織全体で進める体制づくりが必要です。



2.社員に対するコミュニケーションが不足していないか?

インナーブランディングの成否は、社員へのコミュニケーションがどれだけ行えているか、その“量”にかかっています。パーパスが明確に定められていても、社員にしっかり伝わっていなければ、それは単なるスローガンに留まってしまいます。

運用フェーズでは、双方向のコミュニケーションを意識することが大切です。例えば、ワークショップやディスカッションの場を設け、社員が自分の意見や考えを発言できる場を設けることで、パーパスに対する能動的な態度を引き出すことができます。

また、社員一人ひとりが「自分事」として感じられるように、現場での具体的な例に照らし合わせながらコンセプトに込められた思いを伝えることで、社員にとってより理解しやすく日常業務にも結びつけやすくなります。

コミュニケーションを継続しながら、定期的な情報発信や進捗状況を社員にフィードバックすることで、インナーブランディングの活動が途切れることなく進められるようになります。



3.社員の行動、日常業務とリンクしているか?

インナーブランディングを組織に根付かせるには、パーパスが社員の日常業務や具体的な行動に結びついていることが不可欠です。ただ単にコンセプトが掲げられているだけでは、社員にとっては抽象的で、自分の業務とどう関係があるのか理解できず、行動に反映できません。

それでは、パーパスに込められたコンセプトを日々の仕事や意思決定のプロセスに結びつけるにはどうすれば良いでしょうか?

例えば、バリューに定めた行動指針を具体的に示すには、社員が「何がバリューに沿った行動になるのか」をより具体的にブレイクダウンする必要があります。顧客対応の現場であれば「どのような言動が企業のバリューを体現しているのか」またプロジェクトマネジメントにおいてであれば「どのような意思決定がバリューと一致しているのか」、様々なシーンを想定し具体的に説明します。

パーパスが単なる概念としてではなく、社員の行動指針として機能するように、社員の目標設定や評価基準に反映させ、日常業務への浸透を目指していきます。そうして実際の行動に繋げてはじめて、組織全体が一体となって目標に向かうことができます。



4.効果を測る指標が設定されているか?

どのようなプロジェクトでも、成功するにはその成果を測定するKPIが不可欠です。インナーブランディングにおいても、どれだけ組織全体に浸透しているか、社員の行動にどのような影響があったかなど、指標を設け効果測定を行わないと、活動自体が形骸化してしまい持続的な改善が難しくなります。

注意点としては、指標が抽象的になりすぎないことです。インナーブランディングは理念や価値観を浸透させる活動であるため、測定が難しい部分もありますが、具体的な行動や成果に結びつけて指標を設定することで効果を図ることが可能になります。

開始時点では、社員へのアンケートやインタビューを通じて、パーパスに対する理解度や共感度を測ることをお勧めします。例えば、「企業の価値観が自分の日常業務にどう影響を与えるか」といった質問を通じて、社員の理解度や共感度を把握することが可能です。

また社員の行動変化に対して客観的なデータを収集することも可能です。具体的には、離職率やエンゲージメントスコア、顧客満足度、社内提案の数など、組織全体の変化を示す数値を追跡することができます。これにより、インナーブランディングの取り組みが、社員のモチベーションやパフォーマンス、顧客との関係にどのように影響しているかを把握できます。



5.ミドルマネジメントの共感が得られているか?

パーパス、MVVに描かれたゴールを実現するのは現場です。その原動力となるのがリーダー層、ミドルマネジメントです。その共感が得られないと、インナーブランディングが宙に浮いた存在となり、社員の行動に反映されることは非常に困難となります。

ミドルマネジメントの役割を「パーパスに共感し実践するリーダー」と明確に位置づけ、一定の裁量を持たせることで、自発的な取り組みを推進する必要があります。部門ごとにどのようにパーパスを日常業務に反映させるかリーダーが主体的に考え実行することではじめて、インナーブランディングが動き出します。

ミドルマネジメントの共感を得ることは、インナーブランディングの必須項目です。そこから組織全体に一体感が生まれ、ブランディング活動が実効性を持つようになります。



さて、パーパス、MVVの策定は、組織が進むべき方向性を示す地図のようなものです。その地図を手にするだけでは目的地に到達できません。インナーブランディングは、その地図を社員一人ひとりが手に取り、共に歩み出すための仕組みです。

社員が組織の価値観や理念を自分ごととして捉え、日々の業務の中でその価値を実践できるようになるには、長期的な視点と根気が必要です。

まずはこちらに挙げた5つのポイントを振り返っていただき、インナーブランディング成功への手がかりとしていただければ幸いです。


[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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