2022.11.30

パッケージデザインの基礎:2022年度版

山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

パッケージデザインの基礎:2022年度版

「パッケージデザイン」は、消費者が買い物する際に必ず目にして手で触れるという点で、ブランドや商品の「顔」となるような存在であり、最も重要な顧客接点です。我々TCDが年間を通じて携わるブランディングプロジェクトの中でも、商品ブランディングやパッケージデザインは長年大きな比率を占めており、各社がその重要性を認識しています。

今回はそのパッケージデザインについて、時代と共に変化しつつあるその役割を、基本的なことを振り返りながら改めてまとめてみました。パッケージデザインの基礎編としてご活用いただければ幸いです。


パッケージに求められる基本機能とは

では改めて、「パッケージ」とは何でしょうか?それは以下のような概念でまとめられます。

[パッケージの機能概念]
(1)単位化機能・・・モノやコトをひとまとめにする
(2)保持化機能・・・保護・保存・貯蔵する
(3)可搬化機能・・・運搬・携帯させる
(4)用途化機能・・・利用・作動・管理しやすく
(5)意味化機能・・・メッセージにして伝える

※参考文献:「パッケージ・デザイン」(金子修也著)

 

そもそもパッケージが無ければ、製品を「商品」として、必要な容量や数量を単位化し、消費者の手に届くまで中身をしっかり保持することが困難です。そして手に届いてからも、様々な消費シーンにおいて商品を運搬・携帯することが可能で、好きな時に利用しやすい機能が必要です。例えば、ビールは缶に入っていることで、売り場で購入した後に家まで運んできて冷蔵庫で保管でき、そして好きな時に栓抜きやコップ無しで、美味しくいただけます。

そして5番目の「意味化機能」が、パッケージデザインにあたるでしょう。パッケージの表面に文字やビジュアル情報が印刷されることで、中身は何でありどんな魅力があるのかを消費者に伝える役割を果たします。しかし、1〜4の項目もパッケージデザインに無関係ではありません。例えば、以下のイラスト(図1)は私が描き起こしたものですが、文字情報が無いにも関わらず中身の想像がつくと思います。要するに「道具」としての姿でありつつ「情報」としても機能しているということです。

[図1]左から順に、牛乳・コーヒー・水・緑茶?
[図1]左から順に、牛乳・コーヒー・水・緑茶?

このように、中身を保持するためのパッケージの素材や形態自体が「この商品は普通こうでしょう」というイメージに直結している場合があります。デザインについても同様に、これまでの経験から持つ先入観のようなものがあり、パッケージデザインを設計する際には、この消費者の「イメージ」を有効活用したり、あえて外したりすることで、より効率的なコミュニケーションを生み出すことに寄与します。


パッケージデザインの役割とその変化

パッケージは上記5つの機能により「道具性」と「情報性」を併せ持った重要な媒体であることをおさらいしました。ではその情報性の多くを担うパッケージデザインの役割とはどんなものか。以前にも同様の記事を書きましたが、少し年月が経った今現在の状況、そして今後重要と考えるポイントも含めて少しブラッシュアップし、「短期的役割」と「中長期的役割」に分けて改めて見ていきます。

 

[短期的役割]= 売り場で選ばれるために必要なこと

(1)店頭で目を引く斬新性
まず消費者に商品の存在を見つけてもらうことが、時代に関わらず今後もパッケージデザインの重要な使命です。しかし、海外などの様々な商品やデザインを簡単にネットで見ることができる現代では、多少のことでは目の肥えたユーザーに新鮮に映りません。前述の「消費者のイメージ」も進化しているので、そこを意識しつつも保守的になりすぎるのではなく、「他と何か違う」ということを恐れずに、多少常識からはみ出すくらいのバランスが丁度良いのかも知れません。

(2)違いや独自性の伝達
そして見つけてくれた消費者に、他社商品との違いや独自性を明確に訴求しましょう。それがキチンと伝われば、ただ奇をてらっているのではなく「常識をはみ出したデザインには”理由”がある」ということが納得してもらえるはずです。よく似た機能の商品が数多く並ぶ店頭では、消費者はいつもの安心感を求める気持ちと同時に、新しい発見も期待しています。また、上記の斬新性とも通じることですが、他社との機能的な違いを明確に謳えない商品でも、デザインが醸し出す雰囲気やネーミングやキャッチコピーのユニークさによって、個性を表現できる場合もあります。

(3)顧客の共感を生む世界観づくり
先日3年ぶりにサンフランシスコを訪れたのですが、日本と同じように「Z世代」が重要なキーワードとなっており、共感を生み出すための各社の取り組みを目の当たりにしました。以前から、デザインは自分らしさを表現するツールの一つであると考えていますが、ファッションなどの領域では当たり前だったことが、食品や日用品などでもそうなりつつあります。多様な趣味性やライフスタイルに応じて、カテゴリー内商品の細分化が進んでおり、パッケージも売り手の主張をただ伝えるのではなく、ターゲットに「自分のもの」と思ってもらうためのコミュニケーションツールと捉えてデザイン開発することが求められます。

 

[中長期的役割]= ブランドの資産となるために必要なこと

(1)シンプルかつ記憶に残るシンボル性
パッケージデザインがブランドイメージの象徴(アイコン)として記憶され、「ブランド資産」としての価値を持つケースは少なくありません。そして大抵の場合「シンプル」なデザインであることが多い。特に変化の激しい現代の店頭ではデザイン・リニューアルやアイテム追加などを計画当初から戦略的に折り込んでおく必要がありますが、シンプルでアイコニックなデザインは、様々なアイテムへ展開されたり、多少の変化を加えたとしても、シンボル性が強く残るため、非常に有効だと考えられます。しかし、シンプル且つ個性的なデザインを開発するのは簡単ではなく、表現の前に「独自性のあるコンセプトの開発」が肝になります。

(2)社会的視点を組み込んだ設計
皆さんもご承知の通り、CO2削減や脱プラ、リサイクルやアップサイクルなどといった社会課題への積極的な取り組みは、全世界共有の課題になってきています。日本でもモノやコト消費から、「イミ消費」と言われる社会的・文化的価値を求める消費行動がますます広がっています。メーカー企業の活動の中心ともいうべき商品開発において、これらは考慮しなくてはならない当たり前のこととして、今後さらに重視されていくでしょう。商品やパッケージの在り方が、その企業の社会的な姿勢を表すものとして捉えられ、前述の「顧客の共感」を生み出す後押しになります。

[図2]パッケージデザインの役割について
[図2]パッケージデザインの役割について


世界がウィズ・コロナへと変化する中、2022年もあと少しとなり例年のような年末の賑わいが街に戻ってきています。コロナ禍でオンライン消費が増えたとは言え、リアル店舗での買い物はやはりそれとは違う楽しみがあり、人々が街に戻ってくる大きな理由の一つと言えるでしょう。一方で物価上昇という、消費者にとって深刻な問題がこの回復基調に水を差すカタチになり、皆さんも商品を選ぶ目がより厳しくなっているのではないでしょうか。

商品はブランドや企業にとって顧客との「絆」を作る最も重要な接点です。商品を「選ばせる」または「買わせる」のではなく、消費者が楽しく安心して「選びたくなる」デザインを開発することで、改めて顧客との絆をより深めるのだと思います。TCDでは引き続きその「絆作り」に貢献できるよう、社会や市場の変化を注視していきたいと思います。

[筆者プロフィール]

山崎 晴司

株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。

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