2021.11.18

ブランディングとパッケージデザイン – 変化するパッケージデザインの存在意義

山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

ブランディングとパッケージデザイン 変化するパッケージデザインの存在意義

モノが溢れ、人々の「欲しい」という欲求が低下している現代において、消費者に自社の商品を選んでもらうためには、より情緒的で多面的なタッチポイントづくりが必要になっています。そして、コロナ禍によって多くの人がネットショッピングを利用するなど購買行動も変化する中、重要な顧客接点のひとつであるパッケージデザインの役割や存在意義が、ここ数年の間で大きく変化してきているのではないでしょうか。

パッケージデザインの基本的役割について

そもそも、商品のパッケージには無くてはならない役割があります。それは商品を保護したり使いやすくする、または単位化するといった「道具性」と、消費者に商品の特徴や魅力を伝える「情報性」の2つに分けて説明できます。パッケージがなければ、消費者に売り場で商品を見つけてもらい、魅力を伝え、買ってもらうことは大変難しくなります。

そして、パッケージデザインが多くの役割を担う「情報性」には、「目立つこと」「特徴を伝えること」といった店頭などで必要な短期的役割(瞬発力)と、「ブランドイメージとして記憶される」といった中長期的役割(持久力)があります。いずれも消費者に伝えたい情報を発信するという基本的な役割は以前から変わりないものの、その中身については、やはり時代を反映​し​た変化が見受けられます。

コロナ禍がもたらした人々の価値観の変化についても、様々なところで語られていますが、ここでは、パッケージデザインの在り方や役割、存在価値の変化について、アフターコロナの観点も含めつつ、簡単にポイントをまとめてみました。

変化するパッケージデザインのポイントについて

ポイント1)複雑→シンプル

シンプルなデザインが好まれるというのは、以前からもトレンドとしてある傾向でしたが、感覚的情報(色や造形、構成など)のみを指すのではなく、論理的情報(商品説明のための全ての文言)にも、よりシンプルなメッセージ性が求められていると思います。

毎日あらゆる情報に簡単にアクセス出来るようになった現代の消費者は、一方で、多くの情報を理解し、正確性や最適性などを判断する作業を強いられていると言えます。特に日用品や食品など、あまり時間をかけずに買い物をする「最寄品」においては、もっと直感的な判断が出来るデザインが求められているのではないでしょうか。

発信者側としてはつい色々とアピールしたくなりますが、多くの情報を盛り込むことでそれぞれの表示が小さくなり、他の商品と何が違うのか、知りたい情報がどこに書いてあるのかが分かりにくくなるため、消費者に良かれと思って盛り込んだとしても、結局は面倒で不親切なデザインと判断されかねません。

商品について消費者が積極的に知りたいことは、ネット上で色々と調べることが出来る時代です。パッケージデザインを複雑にして何が言いたいのか伝わりづらくするよりも、よりシンプルなデザインで店頭で目を引き、興味を持ってもらうことで、先ずの取っ掛かりを作ることが出来るのではないでしょうか。

Sawaday香るStick(小林製薬)※TCD実績

画像:Sawaday香るStick(小林製薬)※TCD実績

ポイント2)機能訴求→世界観の伝達

「では、シンプルにしよう」と、単純に要素を少なくし、華飾性も抑えようとすると、どこにでもあるような個性を感じないデザインになってしまいます。そこで重要なのが「世界観」。パッケージデザインを、ブランドの魅力を消費者に伝えるためのコミュニケーション手段として捉えることが重要です。

コモディティ化する現代の市場において、各社それぞれの目線では自社商品の特徴に違いはあると考えていても、多くの場合、消費者には同じような価値と捉えられてしまいます。メーカーのブランドであれば、機能的価値だけではなく、消費者に魅力的で共感が持てるブランドコンセプトやパーパスが先ず必要で、その体現のひとつがパッケージデザインであるべきです。

逆に最近様々な店舗でよく見かける「プライベートブランド」の商品パッケージは、そういった消費者心理をうまく捉えて、シンプルで合理的にデザインされているように感じます。また、ナショナルブランドのデザインよりもお洒落で洗練された100円均一商品もあります。機能訴求とデザイントーンだけでは商品価値の差を感じさせるのが難しくなっている今、独自のコンセプトとその体現としてのパッケージデザインの開発がより重要です。

また、パッケージデザインが存在するのは消費者が購買を決定するシーン(売り場)だけではありません。商品を家に持ち帰って使用し終わるまでの一定期間、その人の生活上に存在し続けるパッケージデザインも多くあります。コロナ禍で家にいる時間が増えた人々にとって、心地よく時間を共に出来るパッケージデザインは、ブランドに対する肯定的な感情を生み出す重要な存在になるでしょう。

やえつむぎ

画像:「やえつむぎ」紫黒米玄米、飲む紫黒米玄米(ヤヱガキ酒造)※TCD実績

ポイント3)見た目の良さ→ソーシャルグッド

パッケージデザインによって商品の印象をコントロールし、より高い価値を感じてもらえるような効果を狙うことがあります。特に「高級感」や「上質感」などのキーワードをデザイン開発目標に設定した場合には、グラフィック的要素だけではなく、包材の構成や素材の選定も含めた総合的なデザイン開発が重要なポイントになります。

しかし、国際的なSDGsへの取り組みが進み、消費者の意識も変化する中で、商品の見た目を良くするために一役買っていたパッケージについても、過剰で過大なデザインを見直し、ゴミの削減や脱プラスチックへの貢献が必要となっているのはご承知の通り。さらには各社でその状況を、新たなビジネス機会と捉えた様々な商品開発も進んでいます。

最近の顕著な事例では、ラベルレスのペットボトル緑茶のヒットが挙げられます。プラごみの削減と、廃棄の際のボトルとラベルの分別作業が不要となる点で支持を得ているようですが、これもコロナ禍でおウチ時間が増え、家の中で消費する飲料が増えたことによって、ゴミに対する意識がより高まったことと、店頭で買うのではなく、ネットでのまとめ買いが進んだことで、生活上のパッケージデザインの情報性に対しての意識を変えた結果でもあると思います。

ビニール袋から紙製の袋へと変更されたお菓子のパッケージも続々と増えてきており、日々消費する食品や日用品ではこういった流れは一層進むでしょう。しかし、前述の緑茶の件でも書いたように、「エコだから」という理由と合わせて、消費者ベネフィットや新たな価値も同時に提案することが、より多くの支持に繋がっているという点にも注目が必要です。

ポイント4)差別化→安心感

ラベルレス緑茶は、覆われていたラベルが無くなったことで、中身の色や量などが見やすくなりました。そこには他社との違いを文字やデザインで訴求するのではなく、消費者の目でお茶の色を見てもらい、感覚的に「新鮮で美味しそうだ」と感じてもらえるようにしようという意図があったと考えられます。

そして、中身がはっきり確認できるということで、消費者にとっては、商品を選ぶ際や使用する際の安心感が格段に向上します。この「安心」については、SDGsが掲げている多くの目標にも関連するキーワードですが、全世界で命や健康について考えさせられたコロナ禍によって、消費者の関心の中心が、安心や安全、そして健康へと大きくシフトしたのは間違いないでしょう。

ひとつ目の「シンプル」とも連動するのですが、デザインによって他社との差別化を優先するあまり、本来消費者が求めている商品価値がシンプルに伝わることを妨げ、ともすれば「中身の品質を誤魔化しているのではないか」「消費を煽られているのではないか」という不信感を生んでいる状況もあるのではないかと思います。

商品やブランドがどんな目的で作られたのか、中身はどんな状態で、何を材料に使い、どのような使い方をすれば良いのか、などといった基本的なことが明確に理解できてこそ、消費者が安心して買い物を出来る条件が整います。不安が多い現代では、パッケージデザインは消費に対する高揚感を演出すること以上に、この「安心」が求められているのかもしれません。

以上、4つのキーワードに分けて書いてみましたが、それぞれは繋がり影響し合う内容でもあります。そして、この2年におよぶ世界的パンデミックがもたらした変化が、今後どうなっていくのかは予測困難ですが、消費者の価値観が色濃く反映される商品ブランディングにおいては、こうした変化を捉え、対応していくことが、引き続き課題となっていくことでしょう。(完)

[筆者プロフィール]

山崎 晴司

株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。

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