2019.03.10
手土産のパッケージデザイン
デザインから読み取る、売れている商品の共通点とは?
山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
「良いパッケージデザインとは?」様々なシーンでそんな質問を受けることがあります。大変難しい質問ですがそんな時には「売れている商品のデザイン」とお答えするようにしています。苦し紛れにも聞こえる答えですが案外と間違いではなく、「売れるのには訳がある」ということを表す本質的な答えなのかもしれません。「売れる訳」は、製品自体に顧客を満足させる十分な価値があるということが基本にあります。しかしその価値は実際に顧客に体験してもらうまでは価値になりません。パッケージデザインは、顧客に価値を伝え、心を動かし、手にとってもらうために大変重要な役割を担います。
実際、売れている商品のデザインには共通点が見られます。前回のコラムではブランドの知名度や商品性も含めて、選ばれる商品の傾向を述べました。今回のコラムでは、もう少し具体的なデザイン手法に焦点をあて、「売り場で顧客に見つけてもらうこと」と「味や素材が魅力的に伝わること」という、パッケージデザインの重要な役割を機能させるために、売れている商品にはどのような工夫がされているのかをまとめてみたいと思います。自社でお手伝いした商品以外のデザインについては、あくまで個人的な見解ということでご了承ください。
1.記憶に残るアイコン的デザイン
ブランドロゴ、シンボルマーク、キャラクターなど、一つの要素が際立って印象的に用いられているデザインのこと。また、ユニークなネーミングや独特なパッケージ形状や素材であることも、アイコン的デザインの一つと言えるでしょう。アイコンとは記号や目印という意味で、これを見たらあのブランドを思い出す、といった印象を作り上げるデザイン要素になります。お土産を買うシーンでは、ゆっくり時間をかけて選べないことが多いため、覚えやすくて見つけやすいデザインが効果的です。東京土産菓子の代表格「東京ばな奈」は、そのユニークなネーミングとバナナにリボンをつけたモチーフが特徴。また、弊社がお手伝いしたあみだ池大黒の「pon pon Ja pon(ポンポンジャポン)」は、ふわっとした紙風船のようなパッケージが、この商品のイメージ作りに大きな役割を果たしています。
また、「東京ばな奈」のような定番化したブランドは、そのパッケージデザインに強いアイコン的な要素がなかったとしても、その存在自体がアイコン化されていきます。その結果、似たようなデザインは全て「東京ばな奈っぽいデザイン(商品)」と言われることになるでしょう。固有のブランドとして認められるには、オリジナリティのあるデザイン開発が必要です。
2.カラー+シズルの王道デザイン
カラーも重要なデザイン要素です。色の印象=商品の印象となっていることは珍しくない。そういう意味ではカラーもアイコンと言えます。そして「シズル」とは広告用語で「食欲を刺激する表現」のこと。パッケージデザインではお菓子そのもの、またはフルーツなどの素材の美味しさを訴求するために用いる写真やイラストのことです。パッケージ全体が一つのカラーで覆われていて、真ん中にお菓子の写真またはイラストがあるシンプルなデザインをどこかしらで見かけたことがあると思いますが、「カラー+シズルの王道デザイン」とはそんな手法を指しています。私はそれにより得られる効果を「ガクブチ効果」と呼んでいますが、カラー(色面)が「額縁」の役割をして隣接する商品との境界線を明確にし、その中央にあるシズルが「絵画」になり見る人の視線を集中させる働きをする。これもたくさんある競合商品の中で、他よりも早く判りやすく商品の魅力を伝える手法の一つでしょう。「東京カンパネラ」のデザインがその象徴的なものと言えます。ただ、次々と新しい商品が店頭に並ぶ環境では、色のみでの差別化は今後はより難しくなってきます。「カラー+シズル+α」の工夫が必要でしょう。最近弊社でお手伝いしたウイッシュボンの新商品「東京メルティカ・しっとりフルーツブラウニー」では、しっとりと口の中でとろける独特の食感をイメージしたユニークなイラストを作成、パッケージ全面に展開することで独自の世界観を作り上げました。
3.ストーリー、メッセージ的デザイン
最近発売された話題の商品では、物語性を重視した打ち出しで既存ブランドとの差別化を図っているものが多く見られます。そのブランドでしか成し得なかったであろう商品の誕生ストーリーや架空の物語をベースにすることで、商品のユニーク性を顧客にアピールしています。例えば、素材のバターにとことんこだわったクッキーや、ニューヨーク発祥のスイーツをアレンジしたもの、宇治茶の老舗が作った抹茶ケーキ、オリジナルキャラクターを設定し物語風に展開したものなど、みなさんも一度は目にしたことがあると思います。単に美味しくて人気というだけではなく、その商品について「語れる何か」があるということが、顧客にとっての選択要因となる場合が多い。デザイン開発においてはそういったストーリーを効果的に伝えるために、ブランドデザインコンセプトを作り上げることが重要なポイントとなります。
4.バリエーション+カスタマイズ
近年ギフトを買うシーンは多様化してきています。歳暮や中元などの儀礼ギフトよりも、より日常的なカジュアルギフトへとその需要は広がってきており、駅ナカやショッピングモールなど顧客がギフトを買う場所も多岐に亘る状況の中、商品のあり方も変化してきています。そして百貨店や専門店でも同じ流れにあるように思います。そのキーワードの一つが「バリエーション+カスタマイズ」です。これはデザイン手法というよりは「商品戦略を体現したデザインのカタチ」ということでしょう。簡単に言うと、一つのお菓子のいろんな味のバリエーションがカラフルなパッケージで色分けされて売られている。顧客はそれらを単体で購入することもできるが、店頭で好きなアイテムを選んでギフトセットにもしてもらえる、というような売り方のこと。一つの商品で多くのバリエーションを展開できるということは、高い専門性を有している証であり消費者顧客は魅力を感じます。また、贈る相手の好みに合わせてアイテムを選べる点も使い勝手が良い。あられの老舗メーカーのとよすが展開する「かきたねキッチン」は、まさにこの形で多くの支持を集めているブランドと言えます。
以上、共通点について4つに分けて解説しましたが、実際にはこれらの要素がいくつか組み合わさって効果を上げている例が多いです。すなわち売れる商品のデザイン開発のためには、差別化できるブランドコンセプト、それを伝えるために効果的なネーミングやデザイン、そして顧客が利用しやすい売り方、これらがトータルで工夫されていることが有効ということでしょう。
[筆者プロフィール]
山崎 晴司
株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。