2020.07.13
挑戦し続ける「老舗」のブランディング事 商品ブランディング考 <Part3>
山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
こちらの連載では、商品パッケージデザインの役割と商品ブランディング事例についてご紹介します。
パッケージデザインの役割〜商品ブランディング考
- <Part1>ストア・ブランディングの勘所
- <Part2>競合に勝つパッケージデザイン開発のために
- <Part3> 挑戦し続ける「老舗」のブランディング事例
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最終の今回はストア・ブランディングやギフトパッケージ事例を、解説を交えて取り上げます。
Matthew&Chris.P(マシュー&クリスピー)
<株式会社あみだ池大黒>
大阪土産として有名な岩おこしの老舗、「あみだ池大黒」が展開する洋菓子店。ライスクリスピーとマシュマロをミックスした、アメリカでは家庭おやつの定番として親しまれているお菓子をベースに、日本人の好みに合わせて甘さや味わい、食感などをアレンジした上で、チョコやクッキーなどをトッピングした見た目にも楽しいスイーツが特徴のお店です。おこしの老舗メーカーが洋菓子店を作るというと少し意外に感じますが、お米(ライスクリスピー)がベースになっている点がおこしと共通であり、同社の長年の技術が活かされています。
既にお気づきかと思いますが「マシュー&クリスピー」という名前は、アメリカ人男性の名前をイメージしたものであると同時に、このお菓子に使われる素材の名前をアレンジしたものです。このテーマを進めるにあたり私たちが初めに重要と考えたのは、日本ではまだ馴染みの少ないこのお菓子の伝え方でした。そして社内議論の中で出てきたのが、マシュマロとライスクリスピーという素材そのものをブランドネームに表現するというアイデア。これをアメリカ人男性の名前のように表現することで、「パパと息子がママを驚かすために作ったお菓子」というコンセプトも同時に出来上がっていきました。
ブランドコンセプトに合わせてデザインを検討しますが、今回のポイントは「おもちゃ箱をひっくり返したようなイメージ」。女性的なトーンではなくあくまで男の子のサプライズ企画らしい、やんちゃで遊び心が感じられる仕掛けを散りばめた楽しい世界観を、ブランドロゴからパッケージや店舗デザイン、ツール類に至るまでの全てのデザインに反映していきました。
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<tcdのクリエイティブ領域>
コンセプト、ネーミング(ブランド、商品)、ブランドロゴデザイン、商品デザイン(菓子自体のグラフィック)、パッケージデザイン、店舗デザイン、ツールデザイン
DAIKOKU JOURNEY(ダイコクジャーニー)
<株式会社あみだ池大黒>
こちらもあみだ池大黒の新ブランドで、この年末の12月17日に新大阪駅の新幹線改札内の新名所としてオープンし話題となっている「スイーツ・パティオ」内でデビューしました。このプロジェクトの依頼を受け私たちが主眼としたのは、同社の新たなプラットフォームを作る事でした。商品を全面に打ち出す方法もありましたが、今後も様々な商品を展開していきたいとの意欲が同社にあったため、大阪土産の代表格として支持されてきたその価値を活かしつつ、エキナカなど交通系のお土産需要対応として、現在の趣向にフィットした新しいあみだ池大黒のイメージ醸成が期待できるお土産ショップ作りを目標としました。
エキナカなどのお土産ショップの利用客は、その多くが旅行か出張のお土産購入の為にショップを利用します。そこで「旅」をキーワードにしてコンセプトを練る中で、同社のシンボルである「大黒様が大阪の新しいお菓子作りのため、古今東西に美味しい素材探しの旅を続ける」というストーリーが出来上がりました。ブランドマークは大黒様に米俵型のキャリーバッグを持たせたユニークなデザインを採用。同社の創業当時の古地図などをパッケージに使用し、時代も「旅」するようなレトロモダンな世界観を目指しました。
第1弾で投入された商品は、米粉のパイに焼チョコレートをサンドし、パイの表面にはライスパフがトッピングされていて3つの素材の味や食感が楽しめるお菓子「パイ三度(サンド)」です。大阪のお土産らしく駄洒落を用いたネーミングですが、商品を端的に理解してもらう事と覚えやすさの両方を考慮し開発しました。現状はパイ三度のみの販売となっていますが、第2弾として投入するお菓子の検討が今まさに進んでいます。
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コンセプト、ネーミング(ブランド、商品)、ブランドロゴデザイン、パッケージデザイン、店舗デザイン、ツールデザイン
豆匠 豆福<株式会社 豆福>
八丁味噌やたまり醤油に代表される独特の大豆食文化が根付く尾張名古屋で、地元の人に長年親しまれ名古屋土産としても支持されている豆菓子店「豆匠 豆福」。1939年の創業以来、豆菓子を中心に豆にこだわり続ける同社が、後に迎える創業100年を見据えて更なる成長を目標にリ・ブランディングを行いました。
このプロジェクトで初めに行なったのは、社員の皆さんとのワークショップ形式の自社ブランド考察。そして見えてきた様々な課題や未来像などをまとめた上で、コンセプトやデザイン等、ブランドのあり方を検討していきました。同ブランドの1番の目標は贈答品市場でのシェア拡大。顧客の高齢化・固定化が課題である豆菓子を、再び広く使ってもらえるような存在にするために、「歴史」「格式」「洗練」をキーワードに、まずブランドロゴを刷新することから始めていきました。
同社の象徴的な商品は「山海豆(さんかいまめ)」という、味付けした大豆を海苔で丁寧に巻いた豆菓子。これは創業者が、うまいもんを作らなあかん、という高い志の下、素材に徹底的にこだわり試行錯誤を重ねてようやく完成したもので、現在もほぼ当時と同じ製法を守りひとつひとつ職人の手で巻いて作られています。たくさんの豆菓子を製造している中でもこの山海豆は同社の歴史そのものであり、新しいブランドロゴを検討するにあたって、同社の象徴であるこの山海豆をシンボル化すべきではないかと考えました。そして完成したのが冒頭のロゴマークです。
山の幸と大地の幸、そして海の幸と言う日本の自然の恵みが凝縮されたようなこのお菓子の成り立ちが表現されています。またブランド名の書体も刷新し、新しい看板が誕生しました。
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コンセプト、ブランドロゴデザイン、パッケージデザイン、ツールデザイン
以上、ご紹介した事例については、あみだ池大黒の2ブランドは全く新しい業態、新ブランドの開発である一方、豆福は歴史あるブランドのリニューアルであり、それぞれ状況が大きく異なります。新ブランドの立ち上げは企業にとって大いなる挑戦です。ただブランディングとして考えた場合、今までになかった価値を創出するという点では、ある意味自由でゼロからストーリーを作ることが可能となります。しかしリニューアルの場合は、そのブランドの再活性化が課題であり、既存顧客に配慮しつつ新たな顧客にアピールしていかなければなりません。より難しいのは後者であり、老舗であればあるほど難易度は上がります。
またこのようなリニューアルの場合、ブランドが抱える状況によって「時代に合わせた洗練化」へと舵を切るか、「思い切ったリフレッシュ」へと舵を切るか、大きく2つの方向に分かれると言えます。今回の豆福は、ブランドの現状を見極めた上で思い切ったリニューアルを決め、これから末永く愛されるブランドになるべく、その象徴として新しいシンボルとデザインが採用されました。この例に限らず、全国にある老舗が老舗として存在している所以は、そのような絶え間ない挑戦にあるのだと思います。そのお手伝いするということは重責ではありますが大変光栄なことです。
これらの事例は、今後、状況を見ながら様々な対策をとることが必要になると思います。それは当然のことであり、想いがカタチになりお披露目された時点でブランディングは終わりではなく、ブランドが理想的に育っていくように常に状況を見極めながら随時調整などを行なっていくこともブランディングの重要なプロセスです。私たちもこれらのブランドの動静を見守りつつ引き続きお手伝いをしていきたいと思います。
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かきたねキッチン
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あられとよす
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とよす洛味堂
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[筆者プロフィール]
山崎 晴司
株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。