2022.06.28

事例で見る「商品ブランディング」のテーマ別ポイントについて(1)

山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

一口に「商品ブランディング」と言っても、対象となる商品テーマの状況は様々であり、ブランディングの基本的な目的や開発ステップについては大きな差はないものの、例えば、新ブランド開発と既存ブランドのリブランディングとでは、ブランディングを行なう際のポイントはすこし違ってきます。

そこで本コラムは2回に分けて、私たちTCDが実際にお手伝いした商品ブランディング事例を交えながら、テーマ別の要点を解説していきたいと思います。

「ブランディング」が必要とされる理由

まず、なぜ今「ブランディング」が求められるのか。それはあらゆる市場で、商品の機能面では大差を出すことが難しい「同質化競争」が起こっていることと、現代は変化の激しい「VUCA」の時代と言われるように、少し先の未来すら予測が難しく、これまでのやり方が通用しなくなっていることが背景として挙げられます。

そしてそれは、単純に商品機能を向上させるだけでは勝ち残れないことを意味します。これからのブランドには、顧客の新しい価値を創造し心を掴むコンセプトと、顧客にポジティブなブランド体験を提供し共感を生み出すデザインによって、顧客との「絆」を構築していくことが、各市場でその存在の優位性を高めていくために必要です。

ブランドの階層とは

商品ブランディングを見ていく前に、ブランドの階層について振り返ってみます。各企業によって採用するブランド階層の設定は同じではありませんが、大別すると次のように5つの階層に分類することができます。

図:ブランド階層について

具体的な例については個人的な解釈も含まれますが、上から順に簡単に説明すると、グループブランドはグループ企業全体を束ねたブランドを指します。例えば「TOYOTAグループ」「三菱グループ」などがそれに当たります。次の企業ブランドは、企業グループではなく単一の企業によって構築されているブランドで、その企業全体を象徴するものです。これは「三菱自動車」「Apple」などがその例となります。

その次の事業ブランドはその企業内で展開している事業単位のブランドで、「UNIQLO」や「LEXUS」など。ファミリーブランドは、複数の商品カテゴリーに展開されるブランドで、「CHANEL」や「ビオレ」など、化粧品やファッションブランドに多くみられます。そして商品ブランドは、展開する商品やサービスを明確にするブランドのことで、「iPhone」「ヒートテック」「毛穴すっきりパック」などがここに当たるでしょう。そしてこれらの階層の下に、それぞれ個別に商品の特徴を表す「商品名」や「アイテム名」がつくことが一般的です。

そして今回のテーマである商品ブランディングは、階層の下の3つである「事業ブランド」「ファミリーブランド」「商品ブランド」の構築に関わる内容となることが多いでしょう。

商品ブランドは、企業ブランドを象徴する存在

ブランドは各階層のシナジーによってさらに効果を発揮します。様々なリスクを考慮し、敢えて企業ブランドと切り離して商品ブランドを作る場合もありますが、基本的には企業ブランドから商品ブランドまで、消費者に一貫した印象を与えるように構築することが重要です。TCDでは商品ブランディングを進める場合、企業ブランドを踏まえたブランドコンセプトを導き出すことをお勧めしています。

商品パッケージひとつを取ってみても、パッケージデザインは商品の価値を顧客に伝える重要な媒体であり接点です。商品は企業の技術力、優位性、存在意義を体現したものであり、企業の印象を決める大きな存在。ですので商品ブランディングは企業ブランディングの最重要課題と言えます。パッケージデザインは顧客に商品を買ってもらうことだけが目的ではなく、ブランディングの重要な役割を担い、社会に自社の活動や存在意義を示すコミュニケーションツールとして認識しておくべきではないかと考えています。

商品ブランドのテーマ別に見るポイント

商品ブランディングのテーマについては以下のように、4つの状況別に分類できると思います。

(A)新ブランド開発テーマ
(B)既存ブランドにおけるサブブランド開発(ブランド拡張)テーマ
(C)既存ブランドのリニューアルテーマ
(D)商品デザインのリニューアルテーマ

ここで言う「テーマ」とは、一言でそのプロジェクトの状態を伝えるとしたらどう表現するか、といったところでしょうか。それぞれには「男性用スキンケア商品の」とか「ルームフレグランスの」など、対象となる商品やカテゴリー名が付随します。それではこれらのテーマ別に、事例を交えてポイントを解説します。

(A)新ブランド開発

新ブランド開発は文字通り、新しいブランドを生み出すテーマのことです。その対象は、事業、ファミリー、商品それぞれのブランドとなります。いずれのブランド開発でも、まず重要なのは「独自性のあるブランドコンセプトの策定」です。すでに市場に存在する他ブランドとの違いや価値を、「USP」(Unique Selling Propositionの略で「他にない売り」という意味)と、機能的価値と情緒的価値、そして生活及び社会的価値といった「提供価値」の規定などで明確に定義した上で、それを体現、訴求していくことが必要です。

TCDがお手伝いした栄レース株式会社の「Le La Sa」(ルラッサ)は、「リバーレース」という、古くからヨーロッパで愛されてきた緻密な柄を誇る最高級レースを生かした商品を展開するブランド。栄レースは伝統的なリバーレースの生産技術を受け継いでいる日本の唯一の企業で、現在では生産量世界No.1のメーカーです。世界で唯一、デザイン・企画から製品化まで一貫して対応。60年以上にわたりリバーレースとともに発展してきました。

様々なブランドのオートクチュールコレクションや高級ランジェリー、ウェディングドレスに使用されているリバーレースを、もっと身近に、多くの人に親しんでほしい。そんな思いから自社のオリジナル商品の開発が進められました。そして百貨店などで商品を販売するに当たって顧客によりその価値を感じてもらうために、商品の伝え方が重要ということになり、コンセプトやネーミング、ブランドロゴの開発をTCDがお手伝いすることになりました。

栄レースのリバーレースには、国内唯一、世界No. 1といったそもそもの独自性がありましたので、コンセプトとしてどう効果的に社会に伝わるものにすれば良いかを議論していきました。そして「リバーレースのある暮らしが、贅沢でアートに満ち、幸福な日々であるように」という思いを「Luxe、 L’art、Satisfaction」の3つのキーワードで提供価値に集約、そこから「Le La Sa」というネーミングが生まれました。シンボルマークのモチーフには、昔から変わらず多彩なデザインを織り続けるリバー機そのものを採用し、伝統技術への尊敬と誇りを表現しています。

Le La Saは、これまで様々な企業やブランドへ素材提供していた栄レースが、自らで商品開発・販売する自社ブランドとして生まれました。現在、ストールを中心に、ファッション雑貨、インテリア雑貨など、生活を彩る様々なアイテムを展開中で、今後もさらにカテゴリーの広がりを見据えていますので、当ブランドはBtoC事業を象徴する「事業ブランド」と言えるでしょう。


https://lelasa.com/

(B)既存ブランドにおけるライン・エクステンション(ブランド拡張)

ブランドの立ち上げ後に、強化策として様々な商品を展開し、ブランド拡張を行うことが多くあります。特に競合との競争が激しい市場の場合には、似たような商品が他社からも発売され、商品が希少性を保てる期間が短くなりがち。また短期間で注目されればされるほど、顧客離れも早くなる傾向が多いので、ブランドの鮮度を保ち、顧客満足を維持するために、市場や顧客の変化を注視しつつ常に新たな一手を準備しておく必要があります。

日本初の柿の種専門店として2011年に大阪の百貨店でデビューした、とよす株式会社の「かきたねキッチン」は、チーズ、醤油、海鮮の3つの「旨味」をベースに生み出された様々なフレーバーの柿の種をラインナップしたお店で、現在では全国に直営店が20店舗、空港などの取扱店舗を含めると30店舗にまで拡大。米菓をつくり続けて創業120年のとよすの主要ブランドの一つになりました。


※左がデビュー時、右が現在の商品デザイン

発売から10年以上が経ち、現在のデザインは立ち上げ当初からより上質な世界観へとリニューアルされています。あわせて商品ラインナップの見直しも行われました。そして現在、定番の柿の種シリーズとは別に人気となっているのが「チーズinかきたね」というシリーズです。柿の種の中にしっかりチーズが詰まっていて、「トリュフソルト味」「スモークソルト味」「ブラックペッパー味」といったラインナップ。定番は比較的カジュアルなおやつイメージで広いターゲットに合わせた仕様ですが、こちらはワインやクラフトビールなどに合わせて食べてもらうことを想定した「大人な商品」として開発されました。

https://www.toyosu.co.jp/kakitanekitchen/product/cheese-in-kakitane/index.html

定番商品とは一線を画す黒ベースのデザインと、少しずつ味わって楽しめる小分け袋を採用し、新たなターゲットにフィットする仕様にしています。そういった意味で、このテーマはファミリーブランドにおける「商品ブランド開発」、または商品ブランド内の「サブブランド開発」に当たるでしょう。

商品ブランディングの開発現場では、ブランドコンセプトを策定する際にブランド拡張をどこまで想定したものにするのかといった議論が頻繁に行われます。なぜなら新ブランド開発の場合、デビュー時から理想的な商品ラインナップを展開できることは少なく、ミニマムスタートをすることが多いからです。
拡張の想定範囲を初めから広げすぎると、ブランドイメージがぼやけて登場感が弱くなります。一方で、特定の商品特性だけに絞り込みすぎると後々の拡張が難しくなります。

前述に、新ブランド開発においてのコンセプト検討時には、「USP」と「提供価値」を明確にすることが重要だと書きましたが、現在ではなく「今後ありたいブランドの姿」を思い描き、ブランド拡張を念頭に入れたコンセプトを策定するのが望ましいでしょう。かきたねキッチンは「柿の種」という、わかりやすい故に拡張性が難しく思えるそのコンセプトを、象徴となるお菓子の「形状」を重要なブランド資産とし、「キッチン」という存在意義の下で進化させたことによって、納得性の高い「次の一手の開発」を実現できたと思います。


以上、今回はここまでになります。次回は残りの「(C)既存ブランドのリニューアルテーマ」および「(D)商品デザインのリニューアルテーマ」について、引き続きご紹介したいと思います。

[筆者プロフィール]

山崎 晴司

株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター

日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。

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