ブランディング考

2020.05.29

ブランド・マネージャーの仕事⑥
経営の武器としての「デザイン」

川内 祥克 クリエイティブ・ディレクター



◼️イチから始める「ブランディング」


当コラムでは、大手企業に限らず「ブランド」の重要度が増す中、BtoB企業や中小企業、地方メーカー、スタートアップ、業種・規模を問わず、これからブランディングを始められる方々に向けて、実際のブランディングの流れに沿って話を進めています。

今回は第六回目になります。何かしらの取り掛かりのきっかけや、思索のヒントにしていただければ幸いです。


第0回、キックオフ篇も合わせて参照いただければ幸いです
「いいモノ」から「いいコト」へ。時代はシフトしている



◼️経営の武器としての「デザイン」


今回は、ブランドをカタチにするフェーズの締めくくりになります。次回からはブランディングの運用フェーズに入っていきたいと思います。

ブランディングにおいて「デザイン」ほど重要なものはありません。つまるところ、ユーザーがブランドに接するインターフェイス、それがデザインそのものだからです。

コーラを飲むという体験の前に缶のデザインがあります。その缶を買う前に自動販売機のデザインがあります。または、なにか飲み物を買いに行こうとする前にネットで目にした広告のデザインがあったかもしれません。

これまで、ブランド戦略、ブランド・パーソナリティ、ストーリーづくりを見てきましたが、極論すると、全ては最適なデザインをアウトプットするための準備と言っても言い過ぎではないのではないでしょうか。

逆に言うと、いかに優れたブランド戦略、戦術を積み上げても、最後のアウトプットが的を外していたり、クオリティが低かったりすると、決してユーザーの心を動かすことは出来ないでしょう。



◼️無形資産としてのデザイン


経営において「ヒト・モノ・カネ」の有形資産に対して、情報やブランドなどの無形資産が昨今では特に重要とされています。

情報においては今後、その中身になるデータが重要になるでしょう。ブランドにおいては今後、そのブランドたらしめるデザインがますます重要になるのではないのでしょうか?

ブランドは一朝一夕では仕上がりません。時間をかけてユーザーの中に形作られていきます。だからこそ、しっかり作り上げることができれば、強固な武器になります。

広告やウェブサイトを見ていいなぁと思う。実際に製品を見てかっこいいと思う。触ってみて使いやすいと感じる。買って何か誇らしい気分になる。そうしたブランド体験すべてにデザインが大きく関わっています。


こちらの写真はロンドンのデザインミュージアムで撮影したものですが、常設エリアには、この3つのブランドが紹介されています。

なぜこの三社だったのか。色々な想像を掻き立てられますが、共通して言えることはデザインを経営の中心に据えた三社なのではないでしょうか。

BRAUNは現在にも繋がる様々なプロダクトデザインの原型を生み出しました。SONYは製品のデザイン性(*1)を高めることで企業のブランド価値が高まることを世界に知らしめました。そしてAppleはそうしたデザインの有効性を「デザイン経営」という、より高い次元に昇華させました。







https://www.hustwit.com/rams(*2)


こちらはBRAUNのプロダクト・デザインを牽引したデザイナー、ディーター・ラムスのドキュメンタリームービーです。その中で氏が一貫して伝えていることは、デザインは「Less, but better(より控えめに、しかしより良く)」であるべき、という姿勢です。

この哲学は、デザイン・ヴィジョンの枠を超え、BRAUNをドイツの小さな機械工場からドイツを代表する製造会社へと成長させ、そして世界で工業デザインを代表する存在へと押し上げる、経営資産となっていきました。



◼️良きパートナーとしてのクリエイターを見つける


さて、実際ブランドをカタチにしていく際はプロのクリエイター、デザイナーに依頼することになりますが、その際、クリエイターとどのようにコミュニケーションを図れば良いか、横浜DeNAベイスターズの初代代表者池田純氏の著書『空気のつくり方』(*3)から引用したいと思います。



“デザイン”より重要なものはない。クリエイターとの付き合い方。
会社のアジェンダをしっかりと明確に伝える

・何を伝えたいのか
・何を伝えるべきなのか
・競合と一線を画すために考えてきたことは何か
・開発の背景にどんな苦労があったのか
・自社ないし自社の製品にはどんな魅力や強みがあるのか
・どんなトーン&マナーで伝えたいのか
・誰に向けて伝えたいのか


これらはまさに、私たちがいつもオリエンテーションで質問する内容で、巧くまとまっています。このように、ブランドが顧客に伝えたい「あるべき姿」が明確になってはじめて、クリエイターは力を発揮できます。
そのクリエイターについても触れられているので見てみましょう。



理解しようとする姿勢が先に立つクリエイター

世の中にはたくさんのクリエイターがいますが、中には自己表現を優先するクリエイターもいます。「それってあなたがやりたいだけなのでは?」と思ったこともあります。そういった無責任なコミュニケーションを世の中に放つわけにはいきません。

逆に、「その意図を表現したいなら、このプランではダメだ」「それはまだ早い。今はこうすべきだ」とパートナーとしてはっきり言ってくれるクリエイターと出会うことができたなら、しっかりどっしりと向き合って、一貫したコミュニケーションづくりに協力してもらうのも手です。


池田氏は赤字経営の続いていた横浜DeNAベイスターズを5年で黒字化させ、「最下位なのに連日満員」のブランドに育て上げました。その間、特に注力されたのが(1)コミュニケーション、(2)経営の革新性・透明性、そして(3)ブランディングです。


サイト一つを切り取っても、瞬間的に「カッコいい」と感じさせる強いコミュニケーション力を持ったデザインです。そして、横浜らしい良い意味でのバタくささ、「野球」というより「ベースボール」の似合う世界観が巧く表現されています。



◼️デザインに必要なのは「誠実さ」


時代の移り変わりとともに、デザインが果たすべき役割りも変わってきています。デザインは製品を魅力的に見せるためのスタイリングツールでもなければ、購入意欲を掻き立てるためのメガフォンでもありません。

デザインの必須条件は、有用であること、役に立つこと。それは今も昔も変わりませんが、そこに誠実さを求められるのが今の時代ではないでしょうか。例えば開発、製造、広告、販売から最終的な廃棄、リサイクルに至るまでのデザインの中で、少しでも不誠実さを感じると、ユーザーは瞬く間にそれを良いデザインと見なさなくなってしまいます

先に、ディーター・ラムスの「より良く」というポリシーを紹介しました。そのデザイン・ヴィジョンの発祥は、ちょうど今から100年を遡ります。



デザインにはよりよい世界をつくる力がある。デザインすることは姿勢である。

デザインの問題はすべて究極的には1つの大きな問題に還元される。つまり「Design of Life(生きるためのデザイン、生活のためのデザイン)」である。

健全な社会では、すべての職業がそこに向かってそれぞれの役目を果たそうとする。

なぜなら、それぞれの仕事がどれだけ関与するかによって、文明の質が決まるからだ。

ヴィジョン・イン・モーション モホリ=ナジ・ラースロー(*4)
*1919年バウハウスに招聘され、1923年に同校の教授となる



◼️最後に


日本では、ようやく新型コロナウィルスの収束が見えつつあります。しかし、行動の抑制はしばらく続くでしょう。また今回の騒動は、様々な社会のほころびを浮かび上がらせたことも事実です。

コロナ禍以前からも、働き方改革、デジタル・トランスフォーメーション、マルチステークホルダー型経営、SDGsなどのイシューが叫ばれていました。今回の危機はそうした課題に本腰を入れて取り組むチャンスだと思います。

池田氏のポイントになぞらえるなら、コロナ後、どう地域社会とコミュニケーションを図り、既成概念に囚われず新しい経営に挑戦し、そしてどのようにブランドを次世代型ブランドにアップデートするか

そこでデザインが果たす役割りは、決して小さいものではないのではないでしょうか。



(*1)Sony Design Gallery
(*2)Rams -Dieter Rams ドキュメンタリー
(*3)『空気のつくりかた』 池田純著
(*4)『ヴィジョン・イン・モーション』 モホリ=ナジ・ラースロー著
『姿勢としてのデザイン〜デザインが変革の主体となるとき』 アリス・ローソーン著


[筆者プロフィール]

川内 祥克
株式会社TCD クリエイティブ・ディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。


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