2018.02.28
デザインの現場を考える2
デザイン会社をうまく活用するための勘所は?
山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
デザインの現場を考える
- 1 “30,000分の1の出会い”を偶然でなく必然に
- 2 デザイン会社をうまく活用するための勘所は?
私達のようなデザイン会社は日々、様々なクライアント業務を行なっています。そのため多岐にわたる業種のテーマを経験します。弊社ではこれまで100業種以上の課題に取り組んできました。また同じ業種でもそれぞれの会社には文化があり社会的なポジションも違うので、それを含めて考えれば、経験した課題は千差万別、全てがカスタマイズといっても過言ではありません。故に多かれ少なかれ、毎回「新しい勉強」が必要になります。通常どんな場合でも新しいことを始めようとすると大変パワーが必要なものですが、デザイン会社のデザイナーの仕事というのは、常に新しいことが「向うからやってくる」ようなものなので、自ずとそれを引き受ける勇気が備わってきたのでしょうか。それとも元来の新しいもの好き、なのかも知れません。非常に骨が折れますがそこはデザイナーという性分、逆に刺激的でもあり学びの喜びを感じながら取り組んでいます。
今求められているのは「イノベーション」と「ディレクション」
最近のクライアントからの引き合い状況を見ていると、依頼される課題に少し変化を感じます。もちろんこれまでのようなロゴやパッケージなどの「個別のデザイン」や、ブランドイメージの統一を図る為の「トータルデザイン」の依頼が多くを占めるのですが、課題の変化の特徴をふたつに分けると、ひとつは「革新的なアイデアの創出」、もうひとつが「ブランディングのディレクション」です。前者は企業が新たなチャレンジをする場合に社内発想ではなかなかブレークスルーが難しいという状況。後者は個別デザインは各部門で進めているがブランディングの観点で全体を見る人がいない、という状況でのご相談です。
前述のように私達は、様々な業種のテーマを経験してきました。そしてそれは大きな財産となっています。「多業種の経験」はクリエイティブワークに振り幅を持たせますし、「異業種の経験」として捉えれば、業界の常識を打ち破るアイデアを生みだす為の下地になっています。また創業から50年近く経った弊社は、その歴史分の経験を蓄積し応用していくことでさらなるクライアント貢献を可能にすると考えています。依頼の変化の背景として、改めてそこに価値を見いだしていただく機会が増えてきたのではないかと思います。
デザイナーに「デザインの指示をする」のは、もったいない
上記のような期待に合わせて、プロジェクト現場のあり方も変わる必要があります。最高のチームワークを生み出し成果に結びつけるにはどうしたらいいか?その為に個人的に必要と思うことがふたつあります。ひとつは「担当間で随時目標を共有すること」。もうひとつが「クライアントがデザインそのものを指示しないこと」です。「具体的なデザインイメージを他社事例などで提示しないと伝わらないのでは?」と考える方もいますが、意図も伝えずビジュアルイメージだけを伝えようとしているならば、伝えるべき内容が間違っています。デザインサンプルなどを提示する場合は、「何故そのイメージを目指したいのか」という意図を明確に説明することが必要でしょう。
もしデザイナーに「具体的なデザイン(のイメージ)を指示したい」と考えているならば、初めにそれをきちっとデザイナーに伝えること。ただしそれは非常にもったいないことだと思います。「こんな感じにしてください」と依頼(指示)することによって、デザイナーはそれを「再現」するために多くの時間を割く事になるからです。せっかくデザイナーの「発想」に期待いただいているのに、再現させるためだけに依頼するのは、デザイナーの能力の半分またはある部分しか活用していないことと同じです。誤解がないように申し上げると、デザイナーに実施したいイメージを伝えてはいけない、デザインに対しても意見をするのがダメだと言っているのではありません。意見交換は大変重要な恊働作業です。重要なのは、目標や目的と併せてそれらを議論するフラットな場を持つことです。そしてその恊働作業をふまえて目的に合ったデザインを考えるのは、紛れも無くデザイナーの仕事です。
クライアントとデザイナーの関係性について、前回のコラムで『立場に関わらずひとつの目標に向かって協力し合う「チームメンバー」であるべき』ということを書きました。今回の話も併せて方程式にするならば、「成果=情報×経験÷目的」。クライアントにもデザイン会社にも多くの情報や経験があり、それを掛け合わすことでチームの可能性が広がります。それを「目的」できっちり精査し絞り込んでいくのがチームワーク(恊働作業)です。冒頭で課題は千差万別であると書きましたが、であるからこそ「正解」というのは誰にも判らないものだと思っています。正解に近づける為に力を合わすことが出来るチームづくりには、クライアントとデザイナー双方の強みを生かす工夫が必要です。(完)
デザインの現場を考える
- 1 “30,000分の1の出会い”を偶然でなく必然に
- 2 デザイン会社をうまく活用するための勘所は?
[筆者プロフィール]
山崎 晴司
株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。