2021.04.13
新たな時代に対応する商品ブランディングとは?デザイナーと進める顧客の「ホンネ」をつかむ商品開発(2)
山崎 晴司 株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
商品開発から始める、ブランディングの基本フロー
短いスパンで大きな変化が起こる不確実な現代社会では、それに順応するように顧客の欲求も日々変化していきます。そんな時代における商品ブランディングの鍵は、顧客の欲求の変化を敏感に捉え、ブランドの本質的な価値を再構築し、「新たな顧客価値」として提供することにあります。そのためには、顧客のニーズではなく「インサイト」(隠れたホンネ)を掴むことと、それを「カタチ」にして評価していくことが重要であると、前回の記事でお伝えしました。
今回は、新たな顧客価値創造のための商品開発プロセスについて、解説していきたいと思います。
<顧客価値創造のための商品ブランディングフロー>
上の図が基本的な流れになります。特に上段の4つは「商品力強化」のためのフェーズであり、その最大の目的は、成功を期待できる商品開発の基礎づくりの目処をつけること。アイデアの言語化と視覚化、そしてテストを繰り返し行います。ここで手応えを感じることができなければ、その後のブランディングは厳しいものとなるでしょう。モノの力こそがブランドの始まりであると言えます。
<第1フェーズ>「機会の発見」
まずはじめに、新たな商品やブランドがどんな価値を持って、誰に向けて、どの市場で存在するものなのかを考えていきます。そのベースとなるのは、他にない技術や素材、企業の歴史や文化などといった自社の強み。そして、自社では当たり前と思えるようなことの中にも、顧客が改めて共感を覚えたり、魅力的に感じるような強みが必ずあります。それを我々が一緒に棚卸しをしながら、顧客目線を持って見つけ出していきます。主な実施項目は以下の内容です。
1)プロジェクトメンバーへのヒアリング
2)STP仮説構築 など
STPについては、上図のようにセグメンテーション(市場細分化)、ターゲティング(ターゲット設定)、ポジショニング(提供価値規定)の順に、データを元に進めていくことが一般的ですが、しっかりとした構築はのちのブランディングフェーズで調整が可能です。そこで、新しい顧客価値を生み出すための心構えとしても、まずここでは少々思い切った内容で考えてみることをお勧めします。
<第2フェーズ>「インサイトリサーチ」
そして次に、設定したターゲットが本当に欲しいものは何かを掴むための調査を行います。主な実施項目は以下の内容です。
1)エスノグラフィー調査
2)フィールド調査(WEB検索、市場調査)
3)ユーザーイノベーション調査 など
エスノグラフィー調査とは、具体的な商品アイデアを提示してその評価を聞くような調査ではなく、ターゲットの行動を詳細に観察することから、本質的な問題やニーズを発見する「行動観察調査」のことで、インサイトを掴むための重要な調査の一つです。弊社がお手伝いした、アサヒ興洋株式会社の「WAYOWAN」の開発でも、このインサイトリサーチの様々なプロセスから重要なヒントを得ることができました。
テーマは「現代の子育て家庭のための価値ある食器」の開発。まずはじめに弊社内のママさんデザイナーたちを集めて座談会を行ない、食器の話をはじめ、料理や家事、家族との団欒など幅広く意見交換してもらいました。また、各自の自宅の食器棚やキッチン周りの写真を撮ってきてもらい、使用シーンや収納状況などを調査しました。
そこから導き出したのは「食器を選ぶ悩みからの解放」というインサイトでした。食事内容に合わせたり、大人用と子供用の調和、食卓全体のコーディネートなど、家事と仕事を両立する忙しい彼女たちは、いつも「正しい食器の選択」に悩んでいることがわかりました。そしてそのインサイトを元に、今度はデザイナーとして、様々な商品アイデアの切り口を意見交換していきました。
フィールド調査では、上記プロセスで明らかになりつつある課題仮説に対して、それを解決する商品が市場に存在するかどうかを、店舗の売り場やネット情報などで徹底的に調べます。また検索していく中で、ユーザーがある製品を自分が使いやすいようにアレンジしたり、想定外の独特な使い方をしているといった事例に出会うことがあります。これらは商品開発に対して非常に重要な示唆を含む場合が多いので、分析の対象として注目します。(ユーザーイノベーション調査)
<第3フェーズ>「プロトタイプデザイン」
インサイトを掴み、アイデアの種が生まれたら、それを顧客のニーズ(目的)として言語化します。それがまさに商品コンセプト仮説になります。そして、目的を達成するためのウォンツ(手段)として、プロトタイプデザインを起こし、同時に検討していきます。ここはデザイナーが最も力を発揮するところでしょう。以下が主な実施内容です。
1)商品コンセプト仮説
2)モックアップ作成(製品プロトタイプデザイン) など
先ほどの「WAYOWAN」のケースでは、「食器を選ぶ悩みからの解放」というインサイトから、コンセプト仮説を「家族みんなでどんな食事シーンにも使えて収納も綺麗にできる食器」に設定し、デザイン検討をスタート。フォルム感やサイズ、重さや質感、収納性などを考慮しつつプロトタイプを作成していきました。こうしてカタチにすることで、プロジェクトメンバー間での認識のズレをなくしながら、スピーディーにアイデアの精度を上げていきます。
<第4フェーズ>「デザインテスト」
次に、出来上がったプロトタイプでターゲット調査を行います。その主な方法は以下。
1)使用テスト
2)好意度調査
3)テスト販売 など
デザインテストは、グループインタビューやネット調査などを行なうことが多く、また、実際に販売をして消費者の反応を見るテスト販売を行うケースもあります。実際にお金を払うとなると、消費者はよりシビアになりますので、商品への評価をダイレクトに測ることが可能ですが、実施ハードルも高くなります。
WAYOWANのケースでは、TCD社員を対象に、作成したモックアップで使用テストを行いました。弊社には約50人のデザイナーやプランナーが在籍しており、日頃から様々なものを観察している彼らからの意見や改良アイデアが、その後のデザイン調整に大いに役に立ちました。
結果的にこのWAYOWANは、デザイン性や使い勝手、そして優れた収納性など多くの点で評価され、大手小売店にも採用されました。そして多くのメディアにも取り上げられることとなり、ニュースが生まれにくかった椀モノ市場において、消費者に新たな食器のあり方を提案することに成功し、現在もヒット商品として店頭に並んでいます。
ここまでの流れの中で商品の輪郭が出来上がってきたら、次にブランド力、コミュニケーション力の強化を行う、ブランディングフェーズへ移行し、本格的なデビューへ向けて準備をしていきます。商品ブランディングの詳細についてはこちらをご参照ください。
以上が、顧客価値創造プロセスについての大まかな解説でした。
現在、自社の技術や素材を生かして新たにBtoCに向けたブランドを開発したい。または、自社ブランドの再活性化のための新商品開発をしたい。変化の時代に支持される商品を作りたい。そのような課題をお持ちの企業の方は是非、TCDのデザイナーをご活用ください。(完)
[筆者プロフィール]
山崎 晴司
株式会社TCD 代表取締役社長 クリエイティブディレクター
日用品や医薬品、化粧品、食品などの様々なパッケージデザイン開発を中心に、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン等、マーケティング思考を前提にしたクリエイティブワークに幅広く携わる。また百貨店等における新ブランドの立ち上げに際しての戦略立案や商品パッケージから店頭ツール類、店舗までトータルデザインプロデュースも行う。