2023.08.23

BtoB企業向け『強いブランドのつくり方』 ⑦
〜ブランドの「らしさ」をデザインする

川内 祥克 株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター


■デザインは経営の武器になる。


社内に「自信」を与え、社外に「共感」を生む、デザイン経営。

あらゆる業界で技術の標準化が進み、機能面での差別化が難しくなる中、BtoB企業においても「ブランド」が重要ファクターとなりました。

当シリーズでは、どのようにして「強いブランド」を作り上げていくか、主に視覚的デザイン、クリエイティブの側面から解説していきます。経営者やマネージャーの方にとって「デザイン」の視点が広がり、ビジネスの成長に向けて気づきをご提供できれば幸いです。

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■ブランドの「らしさ」をデザインする、5つのファクター

前回は、「ブランド表現」に一貫性を保つことの重要性をお伝えしました。
今回は、その「ブランド表現」において重要となる、5つのファクターを解説していきます。

こちらの5つのファクターは、ブランドの特徴や強み、「らしさ」を顧客の中に根づかせていく上で、ブランディング活動の骨格になります。
是非、自社ブランドに照らし合わせながら読み進めていっていただければと思います。


■1.ブランド・アイデンティティ

まず、そのブランドがどのような存在であり、どのような価値観やビジョンを持っているかを明確にする必要があります。それがブランドのコア(=アイデンティティ)になります。

一般的には、ミッション・ビジョン・バリューやパーパスといった言葉で定義されます。

呼び方はどうあれ、理念や社是を含めてそうした企業ブランドのコンセプトは既に定義されていると思いますが、昨今特に重視されているのが「社会的価値」の視点です。

様々な社会課題が明るみになり世界的にはSDGs(持続可能な17つの開発目標)が策定されました。これまでのCSRのような慈善的な活動ではなく、例えばものづくりであれば、その製造工程が再生可能エネルギーで運営されているなど、本業が持続的で環境負荷の少ない必要があります。企業は今、経済価値だけではなく社会における「共通価値の創造」が求められています

ブランド・アイデンティティを定める際は、どのように社会課題に向き合うのか、むしろSDGsの17項目に縛られず、その企業ならではのスタンスが重要となります。

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■2.ターゲットの理解

効果的に「ブランド表現」を行うためには、顧客の理解は不可欠です。顧客ニーズや要求を把握した上で、それに合ったソリューションを提供することで顧客満足度が上がります。

つまり、「ブランド表現」において、ブランドの強みや特徴を顧客視点で編集し直すことで、より期待を醸成し、より共感を高めることが可能になります。

市場調査、データ分析、定性調査などを通してターゲットの理解は深まっていきます。ターゲットを理解することは顧客の行動を予測することにも繋がります。

調査を通して事業に対するフィードバックを確認し、そこから示唆を得ることも少なくありません。そこでの気づきが新たなアイデアを生み、顧客との関係性はさらに深まっていきます。常に「理解」をバージョンアップすることで顧客満足の次元が高まっていきます。


■3.体験の設計

顧客がブランドとの関わりを通じて得る「体験」が、ブランドに対する印象を形づくり、感情的な好意を形成していきます。顧客に良い体験を提供することで、エンゲージメントが強化されます

そのために「ステージ」の設定と、「コンタクトポイント」の設定が重要になります。顧客とブランドとのステージには、購入前、購入中、購入後(アフターサービス)、再購入(リピート)と大別することができます。顧客とブランドとのコンタクトポイントには、Webサイト、展示会・商談会、最近ではネットミーティングやネットセミナーも重要となっています。

ここで重要となるのが、各コンタクトポイントにおける「設計」です。すなわち、各ステージでどのように感情と記憶を形成するかといった体験の設計(インタラクション・デザイン)です。

特にBtoBにおいては対面が果たす役割りが大きくなります。現場での実践からフィードバックを収集し社内で共有、「体験の設計」もブラッシュアップしていくことが重要になります。


■4.ルック&フィール

ルック&フィールは文字通り、見た目であり、そこから受ける印象のことを指します。ブランディングと言うと、この「見た目」の部分がフォーカスされがちですが、これまで見てきたように、社会的価値を踏まえたアイデンティティ、ターゲットの理解、そして体験の設計を実現するための「ルック&フィール」でないといけません。

その上で、ブランドの識別性を高め、顧客に望ましい印象を与え、記憶に残すためのテクニカルなデザインも必要になってきます。効率的に記憶に残すために視覚的な一貫性を保っていきます。

また、ルック&フィールに一貫性を保つことは、顧客にブランドのプロフェッショナルな印象を与え、信頼を得ることに繋がります。こうしたことも含め、一過性の「見た目」ではなく、中長期的な視点でカラーパレットやフォント、グラフィック要素などの選定を行っていく必要があります。


■5.トーン&ヴォイス

ルック&フィールが視覚的なアウトプットだとすると、トーン&ヴォイスは言語的なアウトプットになります。昨今では、Webサイトや映像コンテンツ、SNSなど、言語的な要素が非常に重要です。特に冒頭に挙げたアイデンティティを伝える上で言葉、言い換えるとそれを伝えるストーリーや物語(narrative)がブランドの価値観を伝える術になります。

また、トーン&ヴォイスは、そのブランドのパーソナリティにも繋がります。何をどのように語るか、そのスタイルはフレンドリーであるのか権威的であるのか、「ブランド表現」として、様々な選択肢があります。

先程触れた通り、BtoBにおいて対面シーンが「ブランド表現」の重要接点である場合、一人ひとりの対応が同じトーン&ヴォイスである必要があります。もしそこにバラつきがあると、人によって、または場面によってそのブランド「らしさ」が違ったように伝わってしまいます。そういう意味で、ルック&フィール以上に一貫性を保つのが難しいかもしれません。

そうした課題を解決するには、まずブランド関係者に対しトーンとボイスの重要性を教育し、適切なコミュニケーション・スタイルを浸透させる必要があります。インナーブランディングを通して、定期的なトレーニングや継続的にフィードバックを行うことで、あるべき「ブランド表現」を社内に浸透させていきます。


さて、これまで述べてきた5つのファクターについて、自社ブランドはどれくらい適切に「ブランド表現」がなされているでしょうか?また、一貫性が保てているでしょうか?
もし課題がある場合は、まず優先順位の高いファクターから取り組んでみてはいかがでしょうか。

[筆者プロフィール]

川内 祥克

株式会社TCD 取締役副社長 クリエイティブディレクター

企業ブランド、事業ブランドやサービス・ブランドの立ち上げ、プロモーション業務に従事。『ブランドのウェブ活用』などのセミナーも開催。

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